2014年09月12日

◆ちょっとブレイクタイム◆

同じホテル内で働いていながら、各部署に根付いたセクショナリズムが絶える事はありません。何もホテルに限った事ではなくて、集団を形成する場合は動物の世界でも同じです。

個々のレストランのウエイターは、総じてバンケットのスタッフとは距離を置いていますし、宿泊部門のスタッフは調理場の考え方を進んで理解しようとは思いません。単なる部門の弊害と言うよりは利害関係のぶつかり合いであって、プライドを感じるポイントの違いや誤解の積み重ねでもあるのです。大きなホテルになればなるほど、マルチな人材を育てるのが難しいと言わざるを得ないでしょう。

しかし、とりわけ他部署との交流に欠けているのがオフィスのスタッフたちです。中でも極め付きなのが経理部門ではないでしょうか。お金の流れを握っていると言う自負からなのか。専門職であると言う自信によるものなのか。大変に特異な物の考え方をしています。

未だ私が若い頃、ある経費の支出を巡って経理と言い争った事があります。

どうしてもそれが販売促進に必要な経費だからと訴えて、僅かな予算で売上げに貢献できるのだから認めて欲しいと主張したのです。経理の側の反論はこうでした。例え少額でも支出する以上は、必ず売上げに繋がると言う根拠がなければならない。たぶん、恐らく、は論外だと。私アドレナリンの分泌は最高潮に達して行きました。

どんな商売にも「絶対」はありません。示せる筈のない根拠を求められて、逆切れした私は「現場の苦労」に話をすり替えて猛然と抗議したのでした。結果的には総支配人が裁定し、全額ではありませんが私の主張が認められたのです。それでも、初めて経理部門と対決をして、私はある大切な事を学ばせて頂いたのでした。

「膨大な経費にほんの少し上乗せするだけではないか。こんな少額の支出くらいは売上拡大の為に当然認めるべきだと現場は考える。」「だが経理の考え方は違う。あくまでも少ない利益の中から出すお金なのだ。そう考えるから安易には認められない。」

烈火の如くに昂ぶっていた私には、その日の彼らのセリフが胸に入っては来ませんでした。

後日の事です。妻とスーパーへ買い物に出かけて、図らずも彼女の口にした一言が、私に経理の考え方の基本を知らしめたのでした。

手当たり次第に買い物かごへ欲しい商品を投げ入れる私に、彼女は「それは明日安くなるから。」と諭して次々に棚へ戻して行ったのです。新聞の折込チラシを隈なくチェックしていたからでしょう。298円の品が248円になると説明されたのでした。たったの50円。私は、わざわざその為に明日再び買いに来ると言う彼女の考えが分かりませんでした。

たったの50円を巡って、納得のいかない私は自宅で彼女を問い詰めました。その時です。
「例え10円しか違わなくても、1割安い商品を買い続ければ2万円の食費の予算が1万8千円で済むでしょ。そしたら浮いた2千円であなたに何か買って上げられるから。」
目からウロコの瞬間でした。この時初めて、私は経理の物の考え方を思い知らされた気がしたのです。正に、負うた子に教えられて浅瀬を渡る、はこの事か。そう感じていました。

気付いてみれば簡単な話だったのです。自分の財布に置き換えてみれば、誰にでも直ぐに理解の出来る話でした。財布の中身は皆が精一杯に稼いでくれたホテルの大切な利益なのです。安易に支出できる筈がありません。それを死守してくれているのが、口やかましい経理の皆さんでした。


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posted by 幻のホテルマン at 12:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 番外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

UG|◆ちょっとブレイクタイム◆


小説の世界に踏み出してみませんか

 コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」をご存知ですか。あまりに有名過ぎて、今さらと思われる方が多いかも知れませんね。そうです。あの「名探偵コナン」の名も、このコナン・ドイル氏から名付けられました。

 あまりに名脇役な引き立て役のパートナー、ワトソン博士との名コンビで難事件を見事に解決して行きます。彼との出会いの場面も当時としては画期的でした。靴底に着いた僅かな土の特徴から、ワトソン博士の行動を逐一言い当てて行くのです。今、世にある殆どの推理小説が、この主人公らの影響を受けていると言っても過言ではありません。「緋色の研究」「バスカヴィル家の犬」など、どれもが名作中の名作です。

 私は映画も大好きです。子供の頃にはマカロニウエスタンのジュリアーノ・ジェンマ(モンゴメリー・ウッド)に憧れていました。「荒野の1ドル銀貨」などは、深夜番組で何度も何度も見ていたものです。フィルムノアールのアラン・ドロンは今でも私のヒーローなのです。

 現代は活字離れが進んだ時代と言われています。その論評を書きたい訳ではありません。数多の専門家の方たちが詳細な分析と記述を行っている事でしょう。

 小説は私たちの想像力と創造力を掻き立ててくれる存在です。どんなに空高くでも、どんなに地の底深くでも、私はたったの一行で飛び移る事が出来ました。頭に描く画像には、何らの制約もないからです。美男美女も想いのまま。豪華で贅沢な王族の暮らしも、遠い過去の地球の裏側の時代も、文字の先には無限の自由が広がっていました。哀しい顔とはどんな顔なのか。心寂(うらさび)しい町とはどんな町なのか。妖怪も、怪獣も、殺人鬼も、巨大ロボットや宇宙旅行さえも、自分の思う世界に遮るものは何一つとしてありません。

 私たちホテルマンは、様々なお客様の、様々なシーンに立ち会わなければならない宿命を背負っています。今、自分は目の前にいるお客様の為に何を為すべきなのか。あるいは何をして差し上げられるのか。正にこの小説だけが持つインスパイアの、想像力と創造力が如何なく発揮される場面なのではないでしょうか。

 どうか、名立たる文豪たりの、永遠の名著を紐解いてみて下さい。あなたの人生を変えるほどの、忘れ難い感動の一冊と巡り合えるかも知れません。

ラベル:小説 映画
posted by 幻のホテルマン at 12:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 番外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

UG|◆ちょっとブレイクタイム◆


「シャリアピンステーキ」

とてもシンプルなお料理です。

 お召し上がりになった事がありますか。牛のランプ肉を叩いて大きく伸ばし、厚さ5ミリほどにしたものをS&Pとバターでソテイします。アッシェしたオニオンも同じくS&Pとバターで甘みが出るまでソテイして、上から肉に平らに盛り付けます。実に簡単な調理法でした。
 ロシアの声楽家フョードル・イワノヴィッチ・シャリアピンが帝国ホテルに滞在していた時に考え出されたお料理です。彼は毎日のテーブルに並ぶ似た類のソースに辟易としていました。そこで料理長を呼んで、何か日本らしいステーキを食べさせてくれないかと直談判したのです。思いを巡らせる料理長は「スキヤキ」に辿り着きました。あの独特な甘みを表現出来ないかと考えたのです。そうして試行錯誤した結果が、シャリアピンステーキだったのでした。その名前は絶賛されたご本人の承諾を得て名付けられたものです。
 今では誕生までのエピソードが諸説入り乱れていて、オニオンも摩り下ろしたものとされていますが間違いです。考案者である当時の帝国ホテルの総料理長、筒井福夫氏の実演した物を何度もサーブし、耳にタコが出来るほど直接私がお聞きしていた話だからです。
 ホテルの顧問をされていた筒井先生のご朝食は、ハーフカットのグレープにお砂糖を載せて、後は冷たいミルクをグラスでお出ししていました。オニオンの刻み方が悪いと、コックたちが怒られていた姿を思い出します。普段はとても優しい紳士でもありました。

忘れられない出来事があります。

私の勤務していたホテルが、事実上の倒産となった翌日の事でした。若手の私はランチの準備をする為に、賄い食をかけ込んで一人でレストランへと戻って行ったのです。どこかで見た記憶のある老人がバーカウンターの隅に腰掛けていました。まさかにそれが晩年の筒井福夫氏だったのです。突然の来訪を聞いたコックたちが調理場から飛び出して来ました。先生はただ一言「大丈夫か?」と問われたのです。胸の熱くなる想いに包まれた瞬間でした。老体を押して、チェーンの全てのホテルを回って下さっていたのです。今でも私は、あの本物のシャリアピンステーキの味を忘れる事が出来ません。
posted by 幻のホテルマン at 12:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 番外 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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